グスコーブドリの伝記/宮沢賢治
グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかで 生まれました。
おとうさんは、グスコーナドリという名高い木こりで、どんな大きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるようにわけなく 切ってしまう人でした。
ブドリにはネリという妹があって、二人は毎日森で遊びました。
ある日おとうさんは、森へ行ったまま帰らなくなり、次の日、「わたしはおとうさんをさがしに行くから」と言ってお母さんも森へ いったしまいました。
それから、二十日 ばかり 過ぎましたら、ある日、籠(かご)をしょった目の鋭い男がやってきて、
「おじさんといっしょに町へ行こう。毎日パンを食べさせてやるよ。」
そしてぷいっとネリを抱きあげて、せなかの籠へ入れて、そのまま、風のように家を出て行きました。
ブドリは、泣いて どなって森のはずれまで追いかけて行きましたが、とうとう疲れてばったり倒れてしまいました。
ブドリは一人ぼっちになってしまいました。
そして、ブドリはある男のもとで、オリザの苗を植え、オリザ作りに精を出しました。
そして6年後、ブドリは オリザ作りの立派な本を書いた、クーボー 博士に会う事ができました。
そればかりか、博士はブドリにイーハトーヴ火山局での仕事を紹介してくれたのです。
火山局ではペンネン老技師の元で機器の扱い方や観測の仕方を学び、一生懸命働き 、そして勉強しました。
2年ほど たちますと、ブドリは他の人たちと一緒にあちこちの山に器械を据え付けに出されたり、
据え付けてある器械の悪くなったのを修繕をするようになりましたので、もうブドリにはイーハトーヴの三百の火山と、その働き具合は 手の中にあるようにわかって来ました。
ブドリが27歳の時、地球全体に寒波が押し寄せました。その対策を考えていたブドリはある晩、クーボー 博士のうちをたずねました。
「カルボナード火山島が、いま爆発したら、地球全体を平均で五度ぐらい暖かくするだろうと思う。」
「先生、あれを今すぐ噴かせられないでしょうか。」
「それはできるだろう。けれども、その仕事に行ったもののうち、最後の一人はどうしても逃げられないのでね。」
「先生、私にそれをやらしてください。」
それから三日の後、火山局の船が、カルボナード島へ急いで行きました。
そこへいくつものやぐらは建ち、電線は連結されました。
すっかりしたくができると、ブドリはみんなを船で帰してしまい、自分は一人島に残りました。
そしてその次の日、イーハトーヴの人たちは、青ぞらが緑いろに濁り、日や月が銅(あかがね)色になったのを見ました。
けれどもそれから三四日たちますと、気候はぐんぐん暖かくなってきて、その秋は ほぼ普通の作柄になりました。
その冬を暖かい食べ物と、明るい薪(たきぎ)で楽しく暮らすことができました。
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