日本の近代文学史-大衆小説の興隆

日本の近代文学史-大衆小説の興隆

吉川英治

大衆小説は、明治期に尾崎紅葉の『金色夜叉』(1897年)などの風俗小説が発展し、村上浪六、塚原渋柿園の髷物(撥鬢物)、押川春浪の冒険小説など通俗的な小説が書かれ、その先駆となった。

1913年に、中里介山は「大乗小説」と称する大作『大菩薩峠』の連載を開始。人間の業を描こうとした時代小説で、未完に終わったがその影響は大きく、大衆小説の出発点とされる。1925年に刊行された「キング」には当時の人気作家がこぞって執筆した。

昭和時代に入ってから吉川英治が高い人気を得て、『鳴門秘帖』(1933年)、『宮本武蔵』(1939年)などで国民作家の名を冠せられた。このほか、講談や読本の流れをくむ時代小説では、大佛次郎、白井喬二らが活躍した。

探偵小説は黒岩涙香の翻案小説などで紹介された。このジャンルでは、「新青年」に『二銭銅貨』(1923年)でデビューした江戸川乱歩が数多く執筆し、多大な影響を与えた。このジャンルは甲賀三郎、横溝正史らのほか、江戸時代を舞台にした「捕物帳」と呼ばれる時代物が書かれた。