清兵衛と瓢箪 /志賀直哉
清兵衛は12歳の小学生です。
瓢箪が大好きで、持っている瓢箪をしきりに磨いては、飽きずに眺めています。父は、「子供のくせに」と苦々しく思っていました。
ある日、いつも見られない場所に、20ばかりの瓢箪が下げてあるのを発見し、その中に5寸ほどの、彼には震いつきたいほどいいのがありました。
彼はそれを10銭で買いました。それからはその瓢箪に夢中になり、授業中も磨いていて、とうとう担任の教員に見つかってしまいます。
教員は瓢箪を取りあげ、家へも注意をしに来ました。父は清兵衛をさんざん殴り、瓢箪を一つ残らず割ってしまいました。
取りあげられた瓢箪は 教員から小使いの手に渡り、骨董屋で5円の値で売れました。
小使いはそれを誰にも口外しなかったが、骨董屋がその瓢箪をさる豪家に600円で売ったことを知る由もありません。
清兵衛は今、絵を描くことに 熱中しています。父はしだいに絵にも小言を言い出してきています。