山月記/中島敦 <あらすじ、要約>

山月記/中島敦 <あらすじ、要約>

山月記 という作品は、中国の 人虎伝(じんこでん) という物語がもとになっています。

山月記 は 傲慢さ 自己顕示欲 が原因で李徴は虎になっています。 自らの内面の醜さ  を 猛虎 と表現したのです。

李徴は自信家であると同時に、自分には本当は才能がないんじゃないか という不安も抱えていました。
自分は優れた人間だ と信じていたので、人の命令に従うことをよしとせず、
一方で、自分が無能であることが発覚すること が怖くて、他人との接触をどんどん断っていきます。

結局、自信□不安□自己中心的 であった内心が原因で、外見が虎へと変貌したのです。

一読すると 山月記 という作品は、傲慢な李徴が報いを受けて、虎に化けた と思い込みがちですが、
元来、人間には 虎になる要素 が多分にあるはずで、李徴が特殊なケースではないということです

本文中、李徴 人間は誰でも心に猛獣を飼っている と述べています。
すなわち、人間が虎にならないのは、理性で猛獣をコントロールしているからだ ということです。

その理性がぶっ飛んでしまった李徴は、心の猛獣に支配されて姿まで 虎 になったというわけです。

李徴が暗唱した30の詩を聞いた袁さんは、見事な作品だと思いつつも、 何かが欠けていると感じています。
一体 何が 欠けているというのか?

それは 李徴が他人を思いやる心 だったと考えられます。

漢文調の文章は傑作で、漢語の用い方、読点の打ち方など、ずばぬけた素晴らしい作品です
高校生、大学生に、ぜひ 読んでほしい作品です。

 

<山月記/中島敦>の主な登場人物は2人です。

1、李徴(りちょう)主人公。自己を過信する一方、才能に不安も感じている。内面にふさわしい虎となる。

2、袁さん(えんさん) 李徴の親友。草むらで、虎に成り果てた李徴と遭遇する

<山月記/中島敦> <あらすじ 要約>

才能を過信する李徴(りちょう)

李徴(主人公) は大変頭がよく、才能に恵まれた青年でした。
若くして試験に合格したため、官吏(かんり 役人)の職に就くことになりました。
しかし李徴は頑固者で気性が荒く、協調性に乏しい人間であるとともに、自信家でもあったため、
田舎の役人であることに不満を持っていました。
ほどなくして李徴は役人をやめ、故郷に戻り、人と会うことを避けて、詩を作ることに没頭しました。
しかし、詩人としてなかなか有名になることはできなかったため、
次第に生活は苦しくなっていき、李徴は焦りだしていました。
その後、一度は家族(妻と子ども)を養うために役人の職に戻りますが、
徐々に不満はたまっていき、自分を否定する人間を許せなくなっていきました。
そして、1年後。
汝水(じょすい 河南省にある川)のほとりにて、李徴は発狂しました。

袁さん(えんさん)がみた虎の正体は?

翌年、この地方に 袁さん(えんさん) という役人がやってきました。
袁さんは この地方には人喰い虎が出るから、昼間しか通ってはいけない という話を聞いていましたが、
たくさんの人間がいたため、忠告を無視して薄暗いうちから出発しました。
袁さんたちが月明りを頼りに、林の中を通り過ぎようとしたその時ー
1匹の猛虎(もうこ)が草むらから飛び出してきました。
虎は袁さんに飛びかかろうとしましたが、袁さんの姿を見るなり、たちまち身をひるがえして草むらに隠れました。
その草むらの中からは、
あぶないところだった
と、人間の言葉で何度もつぶやいていました。
袁さんには、その声に心当たりがありました。
袁さん   その声は、わが友、李徴ではないか?
袁さんと李徴は役人の同期で、袁さんは李徴が唯一心を許した親友だったのです。

虎になった理由

袁さんと李徴は、しばらく世間話や噂話などに語らい合いました。
そして、袁さんは李徴に尋ねました。
袁さん なぜ虎の姿になってしまったのか~
草むらになかに隠れている李徴は答えました。
李徴 今から1年前、宿に泊まっていると外から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
その声を追って走っているうちに、気づけば山林に入り、四つ足で走っていた。
そうして翌朝、川に自分の姿を映すと、すでに虎になっていたのだ。
そして、李徴は1日のうちに数時間だけ人間の心に戻る時間があるというのです。
そのたびに、虎の自分が行った残虐な行為の痕跡をみつけ、情けなく、恐ろしく、また腹立たしいのだと。しかし、その人間の心に戻る時間も日に日に短くなっているそうです。
まもなく李徴が人間の心を失い、完全に虎となる日が近づいているようでした。

李徴の望み

李徴は自分が本当の虎になってしまう前に、袁さんに1つだけ頼みたいことがあるといいます。
その頼みとは、李徴がこれまでに作った未発表の詩を、袁さんを介して世間に発表したいというものでした。
袁さんは快く引き受け、李徴が暗唱(あんしょう)した30ほどの詩を部下に書きとらせました。
李徴の詩は確かにどれも素晴らしく、一流のものでした。
しかし、同時に袁さんは、
どこか微妙な点で欠けている
とも感じていました。
李徴が詩を伝え終わり、さらに即興で自らの境遇を詩で詠むと、
自分がなぜ虎と成り果てたのか を分析し始めました。
李徴 おれは自分の才能を過信し、人に教えを請うことはしなかった。
同時に、才能がないことが明らかになるのが怖くて、努力をすることを怠った。
ともにおれの臆病な自尊心と、尊大な羞恥心(しゅうちしん)のせいだ。
そんな醜い心にふさわしいように、おれの姿は虎になってしまったのだ。

二人の別れ

やがて空が明るくなってきました。
李徴の心が虎に戻る時間が、まもなく訪れようとしていました。
李徴 もはや別れを告げねばならぬ。
酔わねばならぬときが(虎に戻るときが)近づいたから~
最後に李徴は、故郷に残してきた家族の世話を袁さんにお願いしました。
袁さんは快諾し、二人とも号泣し、ついに別れを告げました。
袁さんたち一行が丘の上に着いたとき、後ろを振り返りました。
たちまち、1匹の虎が茂みから飛び出し、虎は淡く浮かぶ月に向かって吠えました。
そして、虎は草むらへと戻っていき、二度と姿を見せることはありませんでした。

 

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